特別読切「闘将!! 拉麺男 石材の心の巻」の感想です。
ネタバレ含むのでご注意!
世界のあらゆる武道の源流が1400年の歴史を持つ中国拳法にあるといわれている。
その中国拳法の総本山、中国河南省の崇山少林寺。
その一角にある中国拳法史上、最強の四人とされる”拳法四星”の顔が刻まれた英雄面山。
その中でも最強とされるラーメンマンが、まだ顔に”中”の字が刻まれる前の話。
陳老師の元で修業に励むラーメンマンと酸辣。
「ラーメンマン。見事なフォームじゃ」
ラーメンマンを誉める陳老師に酸辣が自分は? とたずねる。
だが、陳老師は攻撃後に両足の動きが必ず元の位置にラーメンマンと比べ、酸辣の地面に着く足跡はバラバラで定まっていないと指摘。
「フォームの乱れは心の乱れ。今のおまえは闘う凶器だ」
と言われた酸辣は、
「……フォームなどどうでもいい」
「相手に勝てばいいんだーーっ!」
と叫びながら頭突きで練習用の木を破壊する。
続いて川にやって来た三人。
「よいか。いつものように魚の気持ちになるのを忘れるな」
陳老師の合図と共に、それぞれが足を使って川の中の魚を川辺へ蹴り上げる。
「フーッ! ハーッ!」
生きた状態の魚を次々に川辺へ積み上げるラーメンマン。
「シャーッ! シャーッ!」
それに対して酸辣の蹴りは次々に魚を真っ二つに裂いていく。
「やめるんだ酸辣。魚がかわいそうだ」
なだめるラーメンマンだが、
「獲った魚の数はあんたと同じ。何の文句がある!?」
「そもそも魚に気持ちなんてあるのかよ」
「毎日こんな反復練習…気が遠くなる。早く超人一〇二芸ってやつを教えやがれ!」
まるで反省の色がない酸辣に陳老師は、
「酸辣~~ッ」
と睨みつけるのだった。
そして数日後。
「ラーメンマンに酸辣。大変長い修行ご苦労であった。まだ超人一〇二芸を授けるまでの途上ではあるが、一応2人とも昇段だ」
陳老師の言葉にかしこまるラーメンマンと、あくまで挑戦的な態度の酸辣。
陳老師は持っていた包みを開き、昇段の印である肩当てを取りに来るがいいと話す。
酸辣は右肩、ラーメンマンは左肩にそれぞれ肩当てを装着。
酸辣の肩当てに『暴』の字が浮かび上がる。
ラーメンマンの肩当てには『闘』の字。
すると、突然悲鳴を挙げた酸辣の肩当てが粉々に砕け散ってしまった。
これはどういうことだと説明を求める酸辣に陳老師は、
「おまえは確かに強い」
「しかしワシから見ればおまえの拳法は邪拳。その肩当ては主の拳の質を問う試金石。酸辣おまえは失格じゃ!」
と告げる。
「わかったよじいさん! あんたは最初っから超人一〇二芸をオレには授けたくなかった!」
「もういいあばよ!」
と酸辣はその場から走り去ってしまった。
今一度酸辣にチャンスを与えて欲しいと話すラーメンマンだったが、陳老師はそれには及ばんと話す。
5年後。
酸辣は巨大な岩に長い木の板が棒状に張り付けられた奇妙な物体を発見する。
「おまえはあのじじいに一杯食わされた酸辣だな」
そんな彼の肩を叩いたのは、かつてラーメンマンの兄弟子として陳老師の元で修業するも、闘龍極意書継承者になれず、その後ラーメンマンとの戦いで二度と闘えない体になった魔鬼幽利偉・叉焼男だった。
叉焼男は最強の弟子を作ってもう一度ラーメンマンに挑むべく、この特訓場(謎の岩)を建設したのだという。
だが、あまりに過酷な特訓のために誰一人成功者が出ていないと。
「オ…オレにやらせてくれ。絶対に必殺技を修得してみせる!」
「あのラーメンマンをあんたと同じ目にあわせてやるーっ!」
酸辣の意志を聞いた叉焼男は特訓法を教える。
それは岩に張り付いた365枚の板でできた日めくりカレンダーを
『頭で一枚ずつ割っていく』
というものだった。
183日目には額は岩の塊に匹敵する硬さとなり、そこからさらに182日続ければ鉄をも凌ぐ硬さを手に入れることができる。
これぞ
『叉焼男極意 火練打亞頭砲(カレンダーとうほう)』
だと。
早速カレンダーに頭突きをする酸辣だが、撃ちつけた額から血しぶきをあげて跳ね返される。
「どうしたさっきの威勢は! 24時間以内に一枚ずつ板を割っていかんと特訓は中止だーっ!」
「その板をラーメンマンだと思って打つのだーっ!」
叉焼男の檄にくそ~~と立ち上がり、目の前のカレンダーに憎きラーメンマンの顔を思い浮かべる酸辣。
「打倒ラーメンマン!」
そう叫んでの今度の頭突きは見事一枚目を粉砕。
鋭い眼光の酸辣に叉焼男は、
「そうだーっ! オレの求めていたのはその目だー!」
「その調子で残り364枚のカレンダーを割れーっ!」
と告げる。
それから酸辣の特訓は365日続き、最後の365日目。
雨の日も雪の日もカレンダーに打ち付けてきた酸辣の額は大きく前面へと突き出し、カレンダーの最後の一枚を岩ごと粉砕する強度となっていた。
一方、この時も陳老師が見守る中稽古をしていたラーメンマンだが、雨が降ってきたので終えようとしたその時だった。
「ラーメンマン覚悟ーっ!」
森の中から駆けてきた酸辣の火練打亞頭砲がさく裂。
咄嗟にかわしたラーメンマンだが、そばにあった木はあっさり折れて倒れる。
「お…おまえは酸辣!?」
驚きの再会。
「ああ。そうだとも。オレは血の滲むような修行を続け、新たな技を身につけた!」
「こんな姿になってな!」
酸辣はラーメンマンの胴に掌底を当てて態勢を崩させると同時に、その両肩を掴んで頭目掛けて火練打亞頭砲を打つ。
その衝撃に頭をおさえて悶え苦しむラーメンマン。
「酸辣。お前その技をどこで?」
陳老師がたずねるが酸辣は話さない。
「聞けいラーメンマン。そやつは手をつけてはならぬものに手をつけた。もはやためらう必要はない」
「成敗せい!」
そう告げる陳老師に
「しかし、も…元弟弟子ですよ!?」
と躊躇うラーメンマンだが、
「そうやって躊躇しておるとお前が殺されるぞ。ラーメンマン」
との言葉を聞き、ラーメンマンも覚悟を決める。
「仕方あるまい。手合わせしよう」
脱いだ服の下に出てきたのは、酸辣にとっては忌々しい『闘』の字が浮かぶ肩当て。
「その肩当て忌々しいーーっ!」
攻撃に出る酸辣だが、本気を出したラーメンマンはそんな彼をまるで寄せ付けない強さを見せる。
その様子を木陰から見ていた叉焼男が、
「覚悟!」
と、ラーメンマンの背後を狙うが、その一撃は陳老師によって受け止められた。
「誰かが裏で糸を引いておると思うたがおぬしだったか。叉焼男よ…」
「こ…このクソじじい~っ!」
叉焼男はあっさり陳老師に返り討ちに遭う。
そして酸辣を相手するラーメンマンの攻撃は止まない。
ラーメンマンの頭骨錐揉脚によって酸辣の出っ張った額が折れる。
倒れた酸辣に止めを刺そうとするラーメンマン。
「そうだラーメンマン。そやつを成敗しろ!」
陳老師の声と、息も絶え絶えに怯えた眼差しの酸辣。
ラーメンマンは振り上げた右手を下すと、
「陳老師! いくら老師の言いつけでも…かつて同じ釜の飯を食べた弟弟子の命を奪うことなど…私にはできません!」
と叫ぶ。
それを聞いた陳老師は脱いだ服を身にまといながら、
「ラーメンマンよ。超人拳法伝承者としての生は厳しい。その優しさはいつかおまえの命取りになりかねん」
「しかし、そこがおまえの良さでもある」
「そして拳法家として大事な”石材”の心がそこにある」
と話す。
「石材…?」
ラーメンマンはただ陳老師の背中を見つめて立ち尽くす。
拳士の人生は石材なり
これに神の姿を彫るも
悪鬼の姿を彫るも
各人の心根ひとつである
そう締めくくられてこの物語は終劇となる。
「闘将!! 拉麵男」は当時単行本を読んで以来であまり内容も憶えていなかったのですが、今回久しぶりの新作読切ということで感想を書いてみました。
あらためて久しぶりに読んでみるとなつかしいなぁという気持ちが一番なのと、やはりゆでたまご先生の漫画は読みやすいなと感じますね。
そしてもう何十年も前でもやっぱり当時好きだった作品は部分部分で案外覚えているものなんだなと。
頭骨錐揉脚とか思わずあったなぁと声出しそうになりました。
闘龍極意書も当時自分で作ってそれ持って修行とかしたのも思い出しましたw
毎号連載は難しいかもしれないけど、不定期でもいいのでまた続けて欲しいなと思いますね。