水木しげる氏の漫画「未来をのぞく男」の感想です。

運命の神が見せる未来

山へ来ていた主人公は突然の嵐から雨宿りしようと近くのほら穴へと駆けこむ。
そこにはテレビを見る老人がいた。

老人は自分を
「運命の神」
だと言い、人は自由に動いているようにみえるが、すべて運命の糸によって操られているという。
そして、目の前のテレビに主人公のこれからを映し出す。

画面には山を下りて汽車に乗る主人公の姿が映し出される。
向かいの席に座る美人に主人公が注目するが老人は、
「お前には関係ない」
と、主人公が期待するような何かが美人との間に発生する事を即座に否定。

続いて主人公は自分の妻となる女性がどんな人か見たいという。
男なら誰だって気になるところ。
「しかしお前、それをみると後悔しないか」
老人の忠告にも大丈夫だと答えると、テレビには美人とは言いにくい女性が笑う姿が映し出される。
「これなんですか?」
最初は事態が把握できない主人公に、老人がこの女性こそが主人公の妻だと伝えると、
「キャーッ!」
主人公まさかの悲鳴w
そこに映し出された未来の妻は、少なくとも彼のタイプの女性ではなかったようです。
「誰でも理想と現実の違いをみるとびっくりするものじゃよ」

次なる希望を求める主人公は自分の社会的地位を見ておきたいと頼む。
だが、映し出された将来の彼は、何十年経っても地位の上がらない安サラリーマンの姿。
「どんなことをしたって課長位にはなれると思ってたんだけど」
「しかし晩年はいいでしょ。長年の苦労が報いられて……」

何とか明るい未来を聞きたいと食い下がる主人公に老人は、
「うん。偉人の伝記なんかにはそんな話がよくあるな……。しかし凡人の伝記は悲惨だ」
「だから何も晩年のことまでみる必要はないだろ」

「少しでも未知の領域を残しておく方が希望の源泉になるのじゃが……」
と、この先は見ない方がいいと再度の忠告。
それでも主人公はここまで見たのだから、最後まで見せて欲しいとお願いする。

画面には今にも壊れそうな家の中で床に伏して臨終を迎えようとしている主人公の姿。
さすがに心が折れた主人公は、雨がやんだのを確認すると洞窟をあとにするのだった。

運命は変えられない

帰りの汽車の中。
向かいの席にテレビで見た美人が乗って来る。
(あのテレビと同じ場面だ)
テレビでは彼女に声すらかけられなかったが、主人公はなんとか運命を変えようと彼女に声をかける。
「あのうどちらまで……」
だが、主人公の声がハッキリ聞こえなかったのか、それとも知ってかはわからないが、
「あのうなにか……」
聞き返す彼女にそれ以上は話しかけられず、彼はテレビと同じ様子で汽車を降り、帰り道に喫茶店へと入る。

頭の中はテレビで見た自分の将来のことばかり。
「末は博士か大臣かと思えばこそ、授業料の値上げ反対にも熱がこもるんだ」
「それが前途に敗北と悲惨が待ち構えているというのなら……」

そんな主人公にコーヒーを運んできたウェイトレスは、テレビで見た自分の将来の妻とそっくりの女性。
「ああ。早くも運命の布石は着々とうたれているのだ」

将来に絶望した主人公は電車への飛び込み自殺を図るが、寸でのところであの老人に止められてしまう。
お前はあのテレビどおりに生きることになっているのだと説教し、
「お前の一存で運命の予定表を狂わすわけにはいかんのじゃ」
と言い残して去っていく。

死ぬ事も許されない主人公は敗北という未来に絶望しながら気付く。
「人間にとって未知は必需品なのだ」
「未来が未知であるが故に未来に対するささやかな夢を抱き、希望ある人生を生きることができるのだ」

と。

感想

多くの人は自分の未来を知りたいと思った事が一度はあるのではないでしょうか。
その理由は興味本位であったり危機回避であったりと様々でしょうが、5年後、10年後の自分がどう生きているのか。
気にならない人はおそらくいないと思います。
「未来が未知であるが故に未来に対するささやかな夢を抱き、希望ある人生を生きることができるのだ」
という、主人公が最後で気付いた事って、案外簡単なようでみんな気付かない部分でもあるのかなと感じました。

でも、この物語で私に重くのしかかってきたのは、主人公のその台詞以上に老人の台詞でした。
「しかし凡人の伝記は悲惨だ」
子供の頃は自分がなりたい職業に就いていることを夢見たし、年齢を重ねて現実を知ってくると無難な将来を想像する。
希望どおりではなくても普通に会社勤めして、結婚して、子供ができて、年齢と共にそれなりの地位にいて……。
私自身はそう考えていたんですね。
でも現実は……。
今の自分と照らし合わせると、老人のこの台詞はどこか重く感じさせる一言でした。

そしてこの書き方からも私の現実は察していただけるとは思いますが、そんな状況でも今作の主人公ほど絶望しないでいられるのは、
「(未来に対して)未知の領域が残されているから」
なんでしょうね。

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